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福岡高等裁判所 昭和47年(ネ)177号 判決

控訴人(付帯被控訴人) 御所浦町

右代表者町長 荒木喜代多

右訴訟代理人弁護士 篠原一男

同 坂本仁郎

同 舞田邦彦

被控訴人(付帯控訴人) 岡部壮

〈ほか一〇名〉

被控訴人(付帯控訴人)ら訴訟代理人弁護士 貫博喜

主文

一  原判決中控訴人(付帯被控訴人)敗訴の部分を取消す。

二  被控訴人(付帯控訴人)らの請求を棄却する。

三  被控訴人(付帯控訴人)らの本件付帯控訴(当審請求拡張分を含む。)を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(付帯控訴人)らの負担とする。

事実

控訴人(付帯被控訴人、以下、単に控訴人という。)代理人は、本件控訴として、主文第一、第二及び第四項と同旨の判決を求め、本件付帯控訴につき、付帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴人(付帯控訴人、以下、単に被控訴人という。)ら代理人は、本件控訴につき、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、本件付帯控訴として、当審で請求を拡張して、「原判決を次のとおり変更する。控訴人は、被控訴人ら各自に対し、それぞれ、金二三万五、七五〇円及びこれに対する昭和四七年四月一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

当事者双方の主張の関係は、次に付加訂正するほか、原判決書摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。

被控訴代理人は、次のように付加して陳述した。

一  被控訴人らは、いずれも、従前主張してきた、昭和四六年七月から同年一一月までの各月分の議員報酬合計金一〇万二、五〇〇円のほか、同年一二月から昭和四七年三月までの各月分並びに昭和四六年一二月に支給さるべき冬期手当て二月分及び昭和四七年三月に支給さるべき年度末手当〇・五月分の、月額金二万〇、五〇〇円の割合による議員報酬についても、控訴人の支払拒絶により、いまだこれを受領していない。従って、被控訴人らは、それぞれ、当審で請求を拡張し、控訴人に対し、右未受領の議員報酬合計金二三万五、七五〇円(一一・五月分)に、これらの議員報酬支給時期を徒過した、昭和四七年四月一日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合いによる遅延損害金を付加して支払うべきことを求める。

二  控訴人主張二の事実のうち、被控訴人らが、それぞれ、控訴人より、その主張の期間内における議員報酬(前記未受領分)につき、その主張の金額の割合いによる弁済の提供を受けたこと、控訴人が、その主張の各時期に、その主張の金額を弁済のため供託したこと、その際控訴人が控除した金額は、控訴人主張の目的で引去られたものであって、かつ、報酬月額金二万五、〇〇〇円を基準とした場合に当然引去られるべき率のそれにあたること、以上の事実は認めるが、その余の事実は否認する。控訴人のなした右弁済供託は、民法四九四条の要件を満たしていないので、弁済の効果が生ずることはない。すなわち、控訴人主張の町議会議決は無効であって、議員報酬額の改正が行われたことはないのであるから、町議会議員としては、従来どおりの議員報酬月額を超えて議員報酬を請求することはできないものであるところ、控訴人は、右報酬月額が改正されたとの立場を固執し、該改正後の金額である月額金二万五、〇〇〇円の割合いで弁済の提供をしたため、被控訴人らにおいてこれが受領を拒絶してきたにすぎない。従って、被控訴人らとしては、月額金二万〇、五〇〇円の割合いによる正当な議員報酬の支給を拒絶したことは一度もないのであるから、民法四九四条にいわゆる弁済の受領を拒んだ場合にあたらず、控訴人のなした供託によって、免責の効果が生ずべきいわれはない。

控訴代理人は、次のように付加して陳述した。

一  被控訴人ら主張一の事実のうち、被控訴人らが、その主張の期間内における議員報酬をいまだ受領していないことは、認めるが、その余の事実は否認する。

二  しかし、控訴人は、被控訴人らに対して、右議員報酬の支給を拒否したことは一度もなく、被控訴人ら主張の各支給時期頃、その主張の金額を上廻る、月額金二万五、〇〇〇円の割合いによる議員報酬を支給するべく、そのつど弁済の提供をしてきたが、被控訴人らの側で、これが受領を拒絶してきた。そこで、控訴人は、やむなく、被控訴人らの受領しない右議員報酬を次のとおり弁済のため供託した。

(1)  昭和四七年一月一八日 昭和四六年七月~同年一二月分

同年一二月に支給すべき冬期手当て

(2)  昭和四七年三月二日 同年一月及び二月分

(3)  同年四月六日 同年三月分

同年三月に支給すべき年度末手当て

なお、右弁済供託にあたっては、議員報酬月額金二万五、〇〇〇円より、地方公務員等共済組合法一六六条に基づく共済掛金、議員互助会規定に基づく議員互助会掛金など、当然引去りが行われるべき、所定の率による金額を控除して供託した。

立証≪省略≫

理由

一  被控訴人らが、いずれも、控訴人たる熊本県天草郡御所浦町の町議会議員であって、同町で施行されている「町議会議員の報酬及び費用弁償条例」に基づき、町議会議員としての報酬を請求し得べき立場にあること、同町議会議員の報酬月額は、少なくとも昭和四六年六月までは金二万〇、五〇〇円であり、同年七月以降においても、これを下廻わらない金額であること、しかるに、被控訴人らは、いずれも、同月より昭和四七年三月までの各月分並びに昭和四六年一二月に支給さるべき冬期手当て二月分及び昭和四七年三月に支給さるべき年度末手当て〇・五月分の議員報酬をいまだ受領していないこと、しかし、反面、控訴人は、被控訴人らに対し、右議員報酬につき、その各支給日頃に、改正後の報酬月額である金二万五、〇〇〇円の割合いによって弁済の提供をなし、かつ、控訴人主張の各時期に、その主張のとおりの金額を弁済のため供託したこと、該供託金額は、右議員報酬につき、月額金二万五、〇〇〇円の割合いによるそれを基準とし、所定の率による共済掛金、議員互助会掛金などの諸控除を行った金額にあたること、以上の事実については当事者間に争いがない。

そうすると、問題となるのは、控訴人のなした右弁済供託によって免責の効果が生じているかどうかである。

この点につき、控訴人は、右弁済供託をするに先立ち、被控訴人らに対し、改正後の報酬月額金二万五、〇〇〇円の割合いで弁済の提供をしているところ、被控訴人らの主張を前提とするかぎり、控訴人主張の町議会議決は無効であって、右報酬改正は効力を生じていないことになる。しかし、そうだとしても、控訴人は、月額金二万〇、五〇〇円の支払いをなすべきところを、これを上廻る月額金二万五、〇〇〇円の割合いで弁済の提供をしているのであるから、特段の事情の存しないかぎり、該提供は債務の本旨に従ってなされたものと認めるのが相当であるところ、本件に顕われた全立証を仔細に検討してみても、右提供の効果を否定するに足る特段の事情を窺わせるものはみあたらない。

そうであるならば、控訴人が右弁済供託をするについては、その供託原因をそなえていたものというべきである。

尤も、控訴人は、右弁済供託をするについても、右月額金二万五、〇〇〇円(ただし、前記諸控除を行ったうえ)の割合いでなしているけれども、右町議会議決に関する被控訴人らの前記主張を前提としても、結局過大に供託した場合にあたり、供託規則三一条及び供託事務取扱手続準則六四条の二等に定める内渡が許されない場合とまでは解されないから、右弁済供託の効果に何らの消長を及ぼすものでないというべきである。

さすれば、被控訴人らの前記未受領の議員報酬に関する請求権は、控訴人のなした右弁済供託によって弁済の効果が生じ、すでに消滅するに至っているものと認めざるを得ない。

二  してみれば、控訴人に対して右議員報酬の支払いを求める被控訴人らの本訴各請求は、その余の争点につき判断するまでもなく失当というべく、これが排斥を免れない。

従って、これと結論を異にする原判決は失当であって、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴部分を取消して、被控訴人らの本訴各請求を棄却すべく、また、本件付帯控訴(当審請求拡張分を含む。)は失当であるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤秀 裁判官 塩田駿一 篠原曜彦)

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